3 争点(1)(脳梗塞に対する治療を怠った過失の有無)について
(1)ア原告は、被告Cには、亡BがD病院入院中から脳梗塞を発症していた
にもかかわらず、それに対する治療を怠った過失があると主張する。
D病院における診療録等には、脳梗塞発症についての記載はなく、D
病院で脳梗塞との診断及び治療がされていなかったことについては当事者
間に争いがない。
そこで、亡BがD病院入院中から脳梗塞を発症していた
かについて検討する。
イ意識障害の有無
(ア) 亡Bの意識障害の状況について検討するに、上記1(4)アのとおり、
術後の7月23日午後9時には、JCSで?-10と評価されたことが
認められる。
翌24日には、意識障害についてクリアと評価されている
が、その後は、看護記録中に退院時まで?-1ないし単に?との記載が
され、病棟管理日誌中には25日の深夜勤及び日勤時に?-3との記載
がされているのであるから、少なくとも一貫して意識が清明でないと認
識されていたことを示している。
また、看護要約には、亡Bの意識レベ
ルにつき「傾眠がちであるが呼名には反応あり」とされており、亡Bの
意識レベルは、刺激しないでも覚醒している状態を示す?よりもさらに
低く、刺激すると覚醒する状態を示す?の段階に達していたのではない
かとの疑問も生ずるところである。
これらの事実からすれば、D病院入
院中に亡Bに何らかの意識障害が継続していたことが認められ、その原
因としては、他に原因が見当たらない限り、何らかの脳障害の存在が推
認されるところである(甲B10〔3〕)。
(イ) この意識障害の原因について、被告Cは、鎮痛目的で投与されてい
たMSコンチン等鎮痛剤の影響であると主張するが、意識障害レベルに
つきJCSで?-10と評価された7月23日については、前日の午後
からMSコンチンは休薬とされており、この意識障害の原因が同薬のみ
にあるとは考え難い。
その上、亡Bは、A医大病院入院中においても、
同薬及びボルタレンを投与されているが、その際には意識障害は確認さ
れておらず、このことからしても、D病院における意識障害の原因が鎮
痛剤のみにあるとは考え難い。
したがって、被告Cの主張は採用できず、他に、上記の推認を妨げる
事情は見当たらない。
ウ運動障害の有無
(ア) また、上記1(5)ウのとおり、看護要約において、食事については、
「要介助」とされており、入院中に、亡Bは自ら食事がとれない状況で
あったことが認められる。
上記1(2)エのとおり、本件手術前には、亡
Bは自力で飲食ができたことからすると、D病院入院中に何らかの運動
障害が発生していたものと推認される。
なお、7月24日の看護記録には「食事介助せずも自力で食べる」と
の記載があるが、同日のただ1回だけ介助なしでの食事が可能であった
とは考え難く、また、どのような食事をどのように食べたのか(特に右
手を用いることができたか否か)の記載も存在せず、上記記載から、自
力での食事が可能な状態であったと認めることはできない。
また、同じく看護要約には、「歩行不可」との記載があり、D病院退
院時には車イスにて退院している。
上記1(2)エ及び1(3)アのとおり、
D病院入院前には、亡Bは歩行が可能であり、D病院へも自ら歩いて入
院したことからすると、入院後に何らかの運動障害が発生したことが認
められる。
(イ) この看護要約の「歩行不可」との記載について、被告Cは、「歩行
不許可」の意味であると主張するが、D病院入院中に亡Bに対して歩行
不許可の指示がされたと認めるに足りる証拠はなく、この主張の趣旨も
残された記載をどのように解釈すべきかとの観点でされているところ、
上記のような解釈は、その前行に安静度について「特に制限なし」との
記載があることと整合しない。