しかし、検査の結果、何らかの異常所見が見られていれば、D病院において
もそれに対する対応をとっていたと考えられるところ、診療録等にはこ
れに関する記載がないことからすれば、同日のCT検査によっても、異
常所見は見られなかったと認められる。
もっとも、脳梗塞が生じた場合においても、上記2(3)イのとおり、
数日間はCT上に異常所見が現れないこともあるため、同日のCT検査
によって異常所見が見られなかったことが、同病院における脳梗塞の発
症を否定するものではない。
(イ) A医大病院で7月28日に撮影された頭部CT検査の読影所見には、
出血性梗塞の存在とそれが「大体1から7日経過したものか」との記載
があるが、この記載は、D病院入院中に、亡Bに脳梗塞が発症していた
とすることと矛盾しない(乙A4〔88〕)。
オ小括
以上のように、D病院における動注ポート留置術後に、亡Bには、そ
れまでになかった意識レベルの低下、摂食及び歩行能力の障害並びに右
片麻痺の発症が認められ、同病院を退院した翌日のCT検査によって出
血性梗塞の存在が認められることからすれば、D病院入院中に、亡Bに
脳梗塞が発症していたと認められる。
(2)ア上記のように、D病院入院中に、亡Bに脳梗塞が発症していたことを
前提に、被告Cの過失の有無につき判断する。
上記2(3)エ(ア)のとおり、脳梗塞の一般的治療としては、床上安静、
全身管理、合併症対策が必要とされていることが認められることからすれ
ば、被告Cには、安静等の全身管理及び脳浮腫管理を行うべき義務が認め
られる。
そして、上記1(4)ウ及びエのとおり、D病院においては、24日から
食事を摂取させ、また、25日には亡Bがベッドから転落するなど、同人
に何らの安静措置を採っておらず、合併症の予防等の必要な措置も行わな
かった。
また、A医大病院への転院に際しても、原告の運転する普通乗用
自動車で移動させ、安静が確保できる救急車での搬送を行わなかった。
したがって、被告Cには、安静措置をはじめとする脳梗塞に対する治療
行わなかった点において、脳梗塞に対する適切な治療を怠った過失が認め
られる。
イ(ア) なお、原告が主張するその他の治療方法のうち、血栓溶解療法につ
いては、上記2(3)エ(イ)のとおり、脳梗塞に対する治療として血栓溶
解療法が存在し、N医師の鑑定意見書(甲B13・以下「N第2意見
書」という。)にも、これを行うべきとする記述がある。
しかしながら、血栓溶解療法については、上記2(3)エ(イ)のとおり、
劇的な効果が得られる可能性はあるものの、出血性梗塞の危険が高いた
め、その適応については厳格に判断する必要があると解される上、丙A
第21号証の1、2によれば、80歳という高齢の患者については血栓
溶解療法の適応がないとの考え方があることが認められ、上記N第2意
見書は、このような観点から亡Bに対する適応の有無について言及して
おらず、他に、血栓溶解療法の適応があったと認めるに足りる証拠はな
い。
したがって、亡Bに血栓溶解療法の適応があったとは認められず、被
告Cに同療法を行うべき義務があったとは認められない。
(イ) また、脳浮腫対策についても、丙A第21号証の1、2では、亡B
のCT所見を引用しつつ、脳浮腫対策としてのグリセロールの投与が必
須ではないとされているのに対し、上記N第2意見書においては、グリ
セロール等の脳浮腫対策の必要性について、亡Bの症状に即した検討は
行われていない。
このようにN第2意見書は、単に、その結論のみを提
示した感があり、たやすく採用することはできず、他にこの点を認める
に足りる証拠はないことからすれば、被告Cに同療法を行うべき義務が
あったとは認められない。